一人暮らしから学んだ世の中いろんなことが起こるもんだ、ということ。
何年か前、家族で集って暮らすのがイヤになり、東京に引っ越した事があった。
今から語るのはそこで経験した、あれこれである。
《初めての不動産屋さん》
アパートを借りるとき、まずはじめに人は何をするだろう。引っ越しする目的によって人それぞれとは思うが、私はとりあえずその土地に乗り込んだ。
そもそも進学や転勤という理由があっての引っ越しではない。とりあえず家を出たい、というのが先で、住む場所はアパマンニュースを買ってから、というスタンスだったので、相当行き当たりばったりではあった。
住みたい都道府県は東京と決まっていた。
住宅情報誌を買いホテルでにらめっこ、家賃と間取り、駅からの距離をチェックした。
2件ほど物件を見に行ったが、ひどい内容だったのでスルー。その後またいい感じのアパートが見つかったので、取り扱いの不動産屋にでかけていった。
「ごめんくださーい、これに載ってるアパート見たいんですけど」と声をかけると、対応にあたってくれたのは、少し派手目のお兄さん。私は少し警戒した。
その人が言うには、「雑誌に載っているのは釣り物件で薦めない、その条件なら他にこんなのがあるよー」と色々チラシをみせてくれた。隠していたらしい。
その中でひとついい物件があった。「ここが気になる」と伝えると、「すぐ見にいきましょう」ということになった。なかなか軽薄だ。
車に乗せられ、物件まで20分。その間やつは営業マンらしく、ペラペラと物件の長所を語り始めた。
物件に到着した。もちろん内見も出来ると思っていた。しかし、まだ住人がいるため出来ないとのこと。なんか怪しい。
と思いつつも、外見はきれいだったし部屋の参考写真も見たところまとも。家賃も最適だったので、どうしようかなと思っていたところ、不動産屋が「ほかの不動産屋からもう一人希望者がこちらへ向かっている。早く決めないと取られるかもしれない。」と言い出した。益々怪しい。
しかしやつの言うことが本当だったらまた探し直しで面倒だし、時間もなかったので契約を決めた。
不動産屋は怪しいのが当たり前なのだからこれでいいのだ、と自分に言い聞かせた。
ここで学んだこと
怪しさより直感。
《引っ越し》
11月吉日。
引っ越し敢行。
お金がないので、レンタカー屋でステーションワゴンを借りて、荷物を運んだ。
手伝いに両親が付いてきてくれた。感謝。
今思うと不思議だが、その日までアパートの鍵を貰ってなかった。そこで管理会社まで鍵を貰いに行った。
鍵はすぐくれたが、管理会社の人はアパートまで誰も付き添ってくれなかった。忙しいらしい。
入居時のチェックみたいなのが有ると聞いていたので、拍子抜けした。
結局、関係者は自分ひとりの引っ越しとなった。
ここで学んだこと
引っ越しとはたったひとりでやるもの
《入居》
部屋に入ると、参考写真通りだったので、ひとまず安心。
我が新居は、北側が道路に面した腰窓、東側が庭?に面した掃き出し窓があるワンルームの一階角部屋で、ロフト付き。私鉄の駅まで徒歩2分、都心まで17分のなかなかよくできた物件だった。
給湯はガスらしいので、ガス屋に開栓を依頼。
コンロは電気。IHじゃない。コイル状のニクロム線が電気で熱せられ、それで調理するという初めて見る代物。よく見ると鍋などを置くための硝子状の板(ガスコンロなら五徳の役割をするものといえばよいだろうか)があるのだが割れている。どうしたものかと考えたが、要は使い物にならない。管理会社に連絡して取り替えて貰うことにした。2、3日かかるとのことだった。
ここで学んだこと
入居時には立会が絶対必要
《転居手続きに行く》
区役所に転居手続きをしに行った。
新居から少し離れていたため、バスに乗っていたところ、携帯が鳴った。
なんと、前職の同僚と上司からだった。
その後、取引先のおじさんからもかかってきた。なんだか泣きそうになった。
ここで学んだこと
会社を辞めるときは円満に
《訪問者》
引っ越し後しばらくしてからの事。
何者かが我が部屋のドアを叩いた。
「新しく引っ越してきた者でーす。挨拶に来ましたあ」善良だった私は迂闊にもドアを開けてしまった。もちろん実家にいたときの癖でチェーンなんぞもかけていなかった。
そこにいたのは、浅黒く日焼けしたホスト崩れのような男。間違っても我が宿、学生アパートのようなところに住むような輩ではない。百歩譲っても入居時に挨拶に来るタイプではなかった。
実際その男は、新しい入居者ではなかった。新聞の勧誘員だった。罠だった。
驚いてドアを閉めようとしたら、そいつがドアの隙間に足を入れて閉められないようにしたので、「警察呼ぶぞ」と大声出しながらドアをグイグイ引っ張ったら、ようやく諦めて出て行った。まるで取り立て屋のような男だった。
実は我がアパートはアパートながら外扉と内扉があった。外扉はアパート全体のドアで、自動ドアではないがオートロックではあった。しかしここの住人どもは面倒がってこの外扉をしばしば開けっ放しにする。その日はどうやらこれが開いていたらしい。
またこんな事が起こったら困るので、外扉が開いているのを見つける度、閉めて回っていた。
ところがこれがいたちごっこ、閉めると誰かが開け放す。
その事件からおよそ一週間後、また我が部屋のドアを叩く者が現れた。
学習した私は、チェーンをかけ、そっとドアを開けた。するとそこにはあの新聞勧誘員の黒い顔が。
「引っ越しの挨拶に来ましたー」とヌケヌケ言う。
「テメー、こないだ来た奴だろうが」と怒鳴り、丁重に閉め出した。
ここで学んだこと
新聞勧誘員は二度来る
《隣人》
隣人は学生らしい。顔は見たことがなかった。
社会人の私と違って、生活サイクルがずれていたうえ、常識もないので大変迷惑をかけられた。
テレビやオーディオの音がうるさい。
友達をよんで夜遅く騒ぐのでうるさい。
彼女をよんでいちゃつく声がうるさい。
バイト帰りなのだろうか、夜中一時頃アパートに帰って来るときは何故だか必ず電話していて、その声がかなりうるさい。(我が部屋は道路沿いなので声がまるぎこえなのだ)
たまにやつが一晩帰ってこない時があると、まるで天国のようだった。
基本的にやつは私の二時間遅れの周期で生活していたが、たまに二時間早く起きる必要のある日もあったらしく、そんなときはオーディオのタイマーを目覚まし代わりにしていた。
ある日のこと、朝五時、隣から爆音が。やつの大好きなポルノグラフィティの楽曲だ。早朝から叩き起こされるのは迷惑だが、いつもならすぐ音は消される。なぜ隣近所に鳴り響くような音量でないといけないのかいささか疑問ではあったが、気にせず残りわずかな眠りを貪ろうとした。
しかし、その日は不可能だった。楽曲が止まらない。なんと、アルバム一枚分、約50分あまりその怪音が続いたのだ。
どうやらタイマーをセットしたまま出かけてしまい、帰ってこなかったため起こった悲劇だった。
おかげでその日私は大切な睡眠の何割かを失った。
色々つもりつもっていた私は、仕返しをしてやろうと思ったが、「落ち着け、やつは子供、私は大人」と唱えながら荒ぶる魂を抑え、とりあえずその日をやり過ごした。
ところがあの馬鹿やろう、またやりやがった。
二度あることは三度ある。やつは三度やった。
天罰は必ず下る。別の部屋の住人から管理会社にチクられたらしい。しばらくしてやつは何処かへ引っ越して行った。
ここで学んだこと
親を選べないように隣人も選べない
《黒い同居人》
前述の通り、私の部屋は一階の角部屋だ。部屋の東は隣との仕切りのない中庭状の通路になっていて、その北詰まりに道路とアパートの敷地とを仕切る塀があり、それに通常管理人しか使えない非常扉状のものがつけられていた。そしてその扉の隣にゴミ捨て場が設置されていた。
この非常扉状のものは鍵がかけられており出入り出来ないはずなのだが、管理人のうっかりなのか、一時期鍵がかけられてない時期があった。
そこに目をつけた一階の住人がゴミ捨てにその扉を使うようになり、私はそれに悩まされた。何故ならその扉を使うには我が部屋の前を通らねばならない。洗濯物が干してある、暑い時期は窓を開けっ放しにしてある、そこを見も知らぬ他人が通るのだ。プライバシーもあったものじゃない。
しかし、それにしてもまして私を悩ませた物は…
2つの嫌らしげな角状のものと黒光りする平べったい湿潤なボディを持ち、壁や床を縦横無尽に走り回り、ときにはあの濡れた四枚羽で空間を支配し、嫌がる者に敢えて近寄るイジメ体質といずれ退治されると分かっているのに思わせぶりに顔を見せるストーカー的性根を持つ、その名はゴ××リ。
ここで学んだこと
ゴミ捨て場のそばに住むときは覚悟がいる
まだまだ書くことはあるのだが、もはや気力が続かない。そのうち続きを書くことにして本日は終了。